まちがえた――幼いわたしはあのとき、そう思った。
まちがえたんだ、そんなこと言っちゃいけなかったんだ、わたしがバカだからお母さんを怒らせたんだ。
恥ずかしくてみじめで消え入りそうな想いがした。もっと気に入ってもらえる子にならなきゃって思った。
だけど、何がお母さんにとっての正解なのかわからなくて、がんばればがんばるほど裏目に出るばかりだった。
「決定的なことが起きたのは、小六のときだったの」
一番思い出したくない記憶を、わたしは胸の奥から引きずり出す。
ノアは何も言わない。言わない代わりに、いつのまにか彼はわたしの手を握っていた。まるで、大丈夫だよ、と言ってくれるように。
だから、わたしはノアに打ち明けることができた。
「小六の春、お母さんの親が死んだんだ。
うちのお母さんね、実家がお金持ちで厳しかったらしくて。二十歳のときにお父さんと出逢って、わたしを妊娠したけど結婚を反対されたんだって。だからわたしの両親は駆け落ちして、ずっと親と会ってなかったらしいの」