「タマちゃんはきっと、愛情をいっぱい受けて育ったんだろうって思うから」


ノアの指が、わたしの前髪についた雪をはらった。わたしは胸が詰まって苦しくなった。


「愛情、なんて……」


わたしはそんな、幸せな人間じゃない。よその家族みたいに仲良しでもないし、愛されているわけでもない。

自分でも自分のことが嫌いなんだから、お母さんがわたしを認めてくれるわけがない。

わたしはバカだし出来が悪いし、がんばっても親から合格点はもらえない。


「……愛情なんて、ないよ」


わたしはその場にゆっくりと座りこんだ。雪の冷たさが、デニムの生地を通してお尻に伝わる。


「なんでそう思うの?」


ノアが正面にしゃがんだ。そうして、わたしに目線を合わせる。やさしい瞳。
そんな目で見られたら、隠し通せなくなるじゃん。

すぐには返事をできなかった。わたしは唇を結び、雪をかき集めた。

いびつな形の、小さい雪だるまをふたつ、そしてもっと小さい雪だるまをひとつ作る。

わたしがそうしている間、ノアは何も言わずに見守っていた。


「十歳のときね」


出来上がった雪だるまを見つめながら、ぼそりと口を開いた。

誰にも話したことのない、胸に秘めてきた想い。