彼の方へ引っ張られ、ぶつかった体の感触に心臓がはねる。


「なあなあ、環」


いつになく、ささやくような口調の翼。息をふくんだ声が、耳にかかる。

悔しいけど速くなる鼓動を隠して、わたしは「何よ」と翼の顔を見上げた。

少しでもバランスをくずしたら、唇が触れてしまいそうな距離だった。動揺するわたしとは裏腹に、翼はどこか楽しそうな表情をしている。

そして、彼が口にした言葉は――。


「けっこうイケメンだろ?」


わたしは目を点にして、「何が?」と尋ねた。


「雄大」


一瞬、意図がわからなかった。なぜ翼がそんなことを言うのか。

けれど、すぐに脳みそが処理を始めて、こめかみのあたりにグワッと血がのぼった。


「あいつ、いいヤツだぜ。ちょっとおとなしいけど、絶対浮気しないだろうし」

「やめてよ」

「照れんなって」


戸惑いと怒りと情けなさで火照る頬を、照れていると勘違いしたのか、翼はやめようとしない。それどころか、


「とりあえず七日間、彼のこと知っていけばいいじゃん」

「美那子……っ」

電話を終えたらしい美那子まで、楽しそうに話に加わってくる。