「おい、ミウ!お前、昨日、俺のこと無視しただろ」



朝、昇降口で声を掛けられて振り向けば、幼馴染の " カズくん " が顔に不機嫌を貼り付けて私を見ていた。

カズくんは、私の一つ年上の高校三年生。

学年は違えど、幼馴染というだけあって顔を合わせれば軽口を叩き合うほどには仲が良い。



「昨日ちょっと急いでたから、それどころじゃなかったの」



悪びれもせず言えば、「お前って、本当に失礼な奴だよな」と、眉根を寄せて睨まれる。

それに「うるさいなぁ」なんて返事を返して足を止め、カズくんが追いつくのを待っていると、隣に並ぶついでに肘で横腹を小突かれた。



「イタッ。やめてよ、昨日ケーキ食べ過ぎて、絶賛胃もたれ中なんだから」

「お前、ケーキ屋に行くために急いでて、俺のこと無視したのかよ」

「うーん。違うけど、違わないかも」



曖昧に返事を返せば、頭一つ高い位置から見下される。同時に、柔らかに細められた目と目が合った。

昔からカズくんとは、こんな風にくだらない言い争いをよくしたなぁ……なんて。そんなことを思えば、胸には懐かしさが流れ込んできた。