「ミウ、おはよう。お母さん、もう行くけど、お弁当テーブルの上に置いてあるから忘れずに持って行ってね」
金曜日の朝。
うるさい目覚ましに起こされた私がリビングの扉を開けると、すでに仕事へ向かう準備を整えたお母さんと鉢合わせた。
「お母さん、今日は早いね…?」
「うん。昨日から、ちょっと容態の気になる患者さんがいてねー。それに、やらなきゃいけないことも、いくつかあって」
トレンチコートを羽織りながら、笑顔で答えるお母さんが横を通り過ぎると、優しい風が頬を撫でた。
その風に誘われるように、玄関に向かうお母さんの後を追う。
まるで、小さな子供みたい。
そんなことを思いながらお母さんの背中を見つめていれば、後ろに立つ私の気配に気が付いたのか、お母さんは視線だけで振り向くと私を見て優しく目を細めた。
「今日は日勤だし、夕飯はミウの好きなもの作ってあげるからね」
「何時頃、帰ってくる……?」
「うーん。早くても6時半くらいかなぁ。だから夕飯は、7時半頃になっちゃうかも」
「そっか……」
「できれば、ご飯だけ炊いておいてくれると助かるな……って、わっ。もう、こんな時間!それじゃあ、お母さん行くね?いってきま─── 」
「あ、あのね、お母さん……!私、大切な話があるんだけど……!」
「大切な話?」