けれどホタルが呼びかけても蒼ちゃんの反応がない、つまりホタルの存在に気づいていない可能性がある、と。

あれ? だったら、どうしておばさんは何か知っている様子だったんだろう。
蒼ちゃん本人も知らないことなら、不自然じゃない?

そう疑問に感じたけれど、おばさんの話を持ち出すのは気がひけるので、別の質問をした。


「じゃあ、あんたは? 蒼ちゃんの人格のとき、あんたは起きてるの?」

「僕はいる」


ホタルが即答した。
起きてる、ではなく、いる、と。


「あいつが外に出ている間も、僕はあいつの目を通して外の様子が見えてる。かなりぼんやりしていて、細かいところまではわからないけどな」


ホタルはグラスに指をつっこんで氷をひとつ取り出すと、それをわたしの目の前にかざした。

氷のむこう側に透けた景色は、白く濁っていて不明瞭だ。


「それに、僕は自分の意志で外に出ることも、引っこむこともできるんだ」


だけど……、と言いながら、氷を持った左手をグラスの上に移動させる。


「蒼にはそれができない」


どぽんっ。音を立てて氷がグラスに沈んだ。