「思いきりぶつかって痛かったよね? ほんとにごめんなさい」
「いや、俺も不注意だったからごめん。えっと……」
言葉を切った花江くんが、拾い上げたプリントの右上に記入してある名前に視線を落とす。
「……マノ、さん?」
「あ、ううん。カヤノ」
茅野 真緒というわたしの名前は、初対面の人の半数以上が“マノマオ”だと思うらしい。漫才コンビみたいな名前だな、なんて男子にからかわれたこともある。
そんなことを考えていたら、花江くんがプリント用紙をこちらにすっと差し出した。
「はい。茅野さん」
彼の白い頬がふんわりと持ち上がり、目元がやさしく三日月を描いた。桜色の唇は花が咲くように開き、そこから真っ白の前歯が並んで見える。
……なんてきれいな笑顔なんだろう。こんなに曇りなく笑う人、いるんだ。