「……寂しくなかった?」
無意識にこぼれ落ちたのは、自分でもあきれるくらいバカげた質問だった。
言ったそばから後悔して取り消そうとしたと同時に、蒼ちゃんが口を開いた。
「寂しくなかったよ」
うつむいた蒼ちゃんの顔に、黒い前髪がさらりと影を落とす。
彼がふいに不自然な動作をしたのは、そのときだった。
右手の指先が小刻みに震えるように、何度も何度も左手をこすっている。
正確には、彼の左手の甲にある、古い傷痕を。
不可解な行動にわたしが戸惑っていると、蒼ちゃんは怖いくらい静かな声で言った。
「兄弟が、いたから」
兄弟……?