しばらくすると千歳のスマホが鳴った。
アルバイト先の店長からの電話らしく、「ごめーん」と口パクで言いながら彼女がベランダに出ていく。

急に蒼ちゃんとふたりきりになったわたしは、気まずさで目を泳がせた。

えっと、何を話せばいいんだろう。
共通の話題と言えばこないだの夜のことだけど、あんなに泣いているところを見せてしまったから、今さら触れるのも気まずい。

結局、悩んだ末に当たり障りのない話題を選んだ。


「花……蒼ちゃんちのおばさんって、優しそうな人だね。やっぱりおじさんもそんな感じ?」

「うん。やさしいよ。両親には感謝してる」


間髪いれずに返ってきたその言葉に、なんとなく違和感を覚えた。
自分の両親のことをそんな風に言える人は、わたしの周りにはあまりいなかったから。

それに、どこか他人行儀な言い方にも感じたのだ。