「あっ、もしかしてこれって水泳の?」


突然、何かを見つけたらしい千歳が声を上げた。

彼女が興味を示したのは、部屋のすみにひっそりと置かれた50センチ四方ほどのプラスチックケースだった。

わたしもつられてケースの中をのぞきこむ。
そこにはいくつもの金メダルやトロフィーが、几帳面に詰めこまれていた。


「すごーい。めっちゃ優勝してるじゃん。噂には聞いてたけど、ほんとに蒼ちゃんってすごかったんだね。
あ、そうだ、水泳部の伊東大和って知ってる? あいつ、蒼ちゃんに入部してもらいたいっていつも言ってるよ」


はしゃぐ千歳に、花江くん――じゃなくて蒼ちゃんは、「そんなたいしたことないよ」と謙遜して返す。
実力があるのに自慢しないなんて、蒼ちゃんってやっぱりいい人だな。

……でも、気のせいだろうか。

なんとなく水泳の話を深堀りさせまいとしているような、そんな印象を受けるのは。