ぽかんと口を開けたまま、わたしは彼を見つめ返す。それからハッと気づき、あわてて反応した。


「う……うんっ、真緒って呼んで!」


思いきり声が裏返ったわたしに、花江くんと千歳が吹き出す。
笑われた恥ずかしさと、自分も入れてもらえた嬉しさで、わたしは頬を赤らめた。


「じゃあ、俺のことも下の名前でいいから」


花江くんが顔をくしゃっとさせて言った。


……“蒼ちゃん”。
まだ馴染みのない呼び方を頭の中で唱えると、胸がむずむずする。でも、嬉しい。

新しい友達ができて、こんな嬉しい気持ちになるのは初めてかもしれない。

それはきっと、わたしにとって彼がただの同級生じゃなく、恩人のような存在だからだ。

夜の海でわたしを助けてくれた人。

とっておきの魔法みたいに、夜光虫の美しい光景を見せてくれた人。

もちろん、わたしが一方的に恩を感じているだけで、彼にとっては何てことないのだろうけど。