麦茶とおかしを運んでくれた花江くんのお母さんが、「ゆっくりしていってね」と微笑みながら部屋を出て行った。
よく冷えた麦茶は喉に気持ちよく、わたしはグラスの半分くらいを一気に飲んだ。
唇からグラスを離して、ふぅっと小さく息をはく。
……なんか、おかしな展開になっちゃったな。
3日前まで花江くんのことは遠目に見ているだけだったのに、今は彼の部屋にいるなんて。
落ち着かないわたしとは裏腹に、千歳は持ち前の人懐っこさであっさり打ち解けて、楽しそうにおしゃべりしている。
さすがだなあ、と感心しながら、わたしはふたりの会話を横で聞いていた。
「そういえば花江くんって、前の学校では何て呼ばれてたの?」
「んー……普通に蒼とか、女子からは蒼ちゃんとか」
「蒼ちゃんかあ。わたしもそう呼んでいい?」
「もちろん」
「わたしのことは千歳って呼んでね」
「千歳。うん、わかった」