それにしても、いきなりお見舞いなんて来てよかったんだろうか。
たいして仲がいいわけでもない他クラスの女子が押し掛けるなんて、迷惑以外の何でもない気がする。

いや、でも教科書を返すっていう大事な用があるし。

いやいや、花江くんからしてみれば、これ以上わたしなんかに関わりたくないかも……。


なんてうだうだと考えているうちに、千歳があっさりチャイムを押した。
反応を待つ沈黙の数秒間、緊張で胃がぎゅっと縮こまる。


『はい』


インターホンから聞こえてきたのは、やさしそうな女性の声だった。


「急にすみません。わたしたち、花江くんと同じ学校の――」

『あ、茅野さん』


突然、聞き覚えのある声がインターホンのむこうから割りこんできた。

花江くん本人だ。

その声色が親しみを帯びていたから、わたしは急に肩の力が抜けた。


『すぐ開ける。待ってて』


パタパタと足音が中から聞こえてきて、玄関のドアが開いた。