鼻をすすりながら空を見上げたわたしに、蒼ちゃんは何も言わず去っていく。
ひとりきりになった海で、わたしは左手首のブレスレットに触れた。
「ホタル……」
ねえ、ホタル。
あなたを想うたびに。
その名前を呼ぶたびに。
今でも胸に痛みが走り、わたしはそこに、ホタルがいるような気がするの。
この胸にぽっかりと空いた空洞はあなたの場所。
ホタルという人がたしかに存在し、
精いっぱい愛したという証。
だから、この痛みを大切に抱きしめて生きていく。
ホタル。いてね、ずっと。
これからもわたしの心は、あなたと共にあるから――。
わたしは立ち上がり、桟橋に落ちていた石を海へと投げこんだ。
淡く青いウミホタルの光が、わたしを包みこむように広がっていった。
《END》