「ホタルは真緒に、最初で最後の恋をした。
絶望から生まれた彼は、真緒と出逢ってこの世界の温もりを知ることができたんだ」
「………」
「ありがとう。真緒の存在は……真っ暗な海に灯った、光だった」
そう告げた蒼ちゃんの笑顔は、なつかしいあの人によく似ていた。
いつのまにか夕陽は沈み、月明かりが海面に浮かびだした。
「もう少しここにいる」とわたしが言うと、「わかった」と蒼ちゃんはうなずき、フェンスの方へと歩いていく。
「あ、そうだ」
何かを思い出して彼が足を止めたのは、フェンスに手をかけたときだった。
「ホタルに口止めされてた秘密が、ふたつあるんだけど、もう時効だろうから話すよ」
「秘密?」
きょとんとするわたしに、蒼ちゃんは「まず、ひとつめ」と切り出した。
「この海で真緒が見た、青い光の名前。
あれは夜光虫じゃなくて、ウミホタルって言うんだ」
ウミホタル。
その名の響きに、胸がどくんと疼く。