彼の表情は、いつもの仏頂面で。

だけどどこか楽しそうで、照れくさそうで、どこにでもいる普通の少年のようで――。

ああ、なんて幸せそうなんだろう。
この瞬間、彼はたしかに、この世界に愛されていたんだ。


「……一年前のあの日」


蒼ちゃんが、ぽつりと口を開いた。


「ホタルが消えたあの日……彼の記憶はすべて俺の中に統合された。
そうして俺は初めて、ホタルがこの世で受けてきた苦しみを知ったんだ。

彼は俺の代わりに、こんなにもつらい思いをしてきたんだって。
彼の絶望はこんなにも深かったんだって。
統合して初めて理解することができた」


そこまで一息に言った蒼ちゃんが、「だけどね」と言葉を続けた。


「ホタルから受け継いだ記憶は、決して苦しみだけじゃなかったんだ」

「え?」

「……温かかった」


蒼ちゃんは噛みしめるように言って、右手をそっと自分の胸元に押し当てた。


「初めて食べたハンバーグも、初めての夏祭りも、初めてつないだ手も……初めての恋も」


恋――…