「真緒!」
「な、何?」
「行くよ」
「行くって?」
まさか……。
後ずさりするわたしの腕をむんずとつかみ、千歳が高らかに宣言する。
「決まってるでしょ、お見舞いだよ」
***
以前は見渡す限り畑だった山間の地区に、新しい家がぽつぽつと建ち始めた住宅街。
その一角に、花江くんのおうちがあった。
「ここかあ。けっこう真緒んちから近いね」
先生からもらった住所のメモを片手に、門の表札を見て千歳がつぶやいた。
わたしの地元から電車ならわずか2駅。
いわゆる隣町で、こないだ花江くんに遭遇した海からも遠くない。
あのとき偶然会ったのも、これなら納得だ。