“彼”というのが萩尾さんを指しているのは明白だった。
だけど違和感を覚えたのは、その言い方がただの仕事の関係には思えなかったから。
そういえば以前、喫茶店で会ったときも、福田のぶえはホタルを見つめて“似てる”とつぶやいた。
今みたいに目を細めて、どこか切なそうに、悲しそうに、愛しそうに――。
「あ」
そうだ、どうして今まで気づかなかったんだろう。
「福田さん、もしかして萩尾さんのことが好きなんですか?」
ぽろりと漏らしたわたしの一言に、福田のぶえの顔色が変わった。
「な、何言ってるの」
「だって、そう考えたらすべて合点がいくんです。水原香澄さんの元同級生のふりをして会いにきたのも、好きな人の息子に会ってみたかったんじゃないですか?」
偽物が必要なら人を雇えばすむことなのに、福田のぶえ自ら会いに来た。
その不自然な行動の裏には、理屈ではない複雑な感情があったんじゃないだろうか。
愛する人の息子であり、憎んだ女の息子。
そしてもしも叶うなら、自分が産みたかったであろう子ども。