「まずいよ、あんた、こないだお母さんに怒られたじゃん。こんな勝手なことしたのがバレたらまた――」
「いいんだよ。怒られたぐらいじゃ死なねえから」
あっけらかんとした返事とともに、ボートが勢いよく動き出した。
水面を切り開くようにスピードを上げ、白い飛沫が跳ね上がる。
立っているとバランスが保てなかったので、わたしはおとなしく腰を下ろした。
風でばさばさとなびく髪が、隣の蒼ちゃんに当たらないように手で押さえる。
「昨日ね、真緒がいなくなったって聞いてから、大和とふたりで話してたんだ。
あの真緒がこんな大胆なことするくらいだもん、きっと大きな理由があるんだって。
わたしたちに協力できることがあるなら、してあげようって」
向かい合う位置に座った千歳が言った。わたしは戸惑いの視線を彼女に向けた。
「でも千歳、なんで」
「なんで、って?」
「だって、何も話してないのに」
千歳も大和も詳しい事情を知らないのに、どうして当たり前のように助けてくれるの?
胸が詰まって言葉にできなかった問いに、千歳が照れくさそうな顔で笑った。