「え、でも」
さっきの会話を聞いていたのだろう。急かす千歳に、わたしと蒼ちゃんは顔を見合わせる。
地元の人でもない千歳が、わたしも知らない裏道を知っているとは思えない。いったい、どうやって駅まで行くつもりなのか。
すると千歳はニヤっと笑い、種明かしをするように「陸じゃないよ」と言った。
* * *
「早く早く! おっさんたちに見つかるぞ」
港のすみに停めた小型ボートの上で、大和がぶんぶんと手を振りながら待っていた。
わたしと蒼ちゃんは誘導されるがまま、遠慮がちにボートに乗りこんだ。
千歳が手際よくロープを外し、ぴょんと飛び乗ってくる。すぐにエンジン音が響き、船体がぶるるんと震えた。
「海を突っ切っていけば、ぎりぎり電車に間に合うはずだ」
大和が気合を入れるように、半そでのTシャツを肩までまくり上げる。
わたしは揺れる足元に気をつけながら、操縦席の後ろから声をかけた。
「ちょっと大和、もしかしてこの船って」
「ああ、俺の大和丸」
やっぱり……!