「ねえ、ホタル」


わたしは深呼吸をして、一番伝えたい想いを胸の奥から取り出した。


「ホタルも自分の幸せを選んでほしい」

「僕の、幸せ……?」


かすかに声が震えた。彼の華奢な指先が、蛍石の感触を確かめるようにそっと触れる。


「うん。きっとホタルもわたしも、幸せになるために生まれてきたんだから」

「………」


何も反応が返ってこないから、言ったそばから急に恥ずかしくなってきた。

さすがに今のは少々カッコつけすぎたかもしれない。
もしかしてホタル、ちょっと引いた?


「ほ、ホタル……?」


表情を窺うために覗きこもうとしたら、突然、彼の手がわたしの頭に乗った。

わしゃわしゃと髪をかきまぜられて「きゃあっ」と悲鳴を上げる。

乱れた髪の毛で視界が遮られ、彼の表情がハッキリと見えない。

だけど、笑っているのはわかった。


「本当にバカばっかりだな、この世界は」


ホタルが噛みしめるような声でつぶやいた。