「俺はホタルに頼まれて、本物の田尻尚子さんを調べて会いに行ったんだ。最初は警戒されたけど、粘ったら正直に話してくれたよ。
彼女、ご主人に内緒でローンがあるらしくて、ついお金を受け取ってしまったんだって。
結果的に真緒ちゃんたちや川口先生をだましたことになって、申し訳ないって謝ってたよ」

「そうだったんですか……」


わたしは凪さんの話を聞きながら、ホタルをちらりと見た。

わたしたちの会った田尻さんが偽物だと、ホタルはいつから気づいていたんだろう。特に怪しいところなんかなかったのに。

そんな疑問を察したのか、ホタルがパソコンを見つめたまま口を開いた。


「あの女には、小さな違和感がいくつもあったんだ」

「……違和感?」

「僕がふいうちで家族の話を振ったとき、一瞬だけ目が泳いだ。あれは想定外のことを聞かれてとっさに作り話をするときの視線の動きだ。
他にも、僕らと会っていた一時間のうちに一度もスマホを見なかった。外回り中の営業職にしては不自然すぎる。
最近7キロも太ったと言うわりに結婚指輪のサイズがぴったり合ってたのもマヌケだったな」