一番古い記憶は水の中だ。
もがいても暴れても浮上できない、冷たい海。
酸素を求めて開いた口から、ごぽりと音を立てて気泡が上っていく。
肺がへしゃげる感覚。
遠ざかる微かな光。
……死の恐怖。
状況すら理解できないまま意識が白くなりかけたとき、不明瞭な視界の先に、自分以外の“誰か”も溺れているのが見えた。
炎のようにゆらゆらと揺れる長い髪。一瞬だけ、目が合った、と思う。
僕はその“誰か”に手を伸ばした。助けを求めたのか、それとも助けようと思ったのか、いまだに自分でもわからないけれど。
だけど伸ばした左手は届かず、目の前で“誰か”は沈んでいった。
――絶望。
あの海で見たものは、ただそれだけだ。
僕の世界には、生まれた瞬間からそれしかなかった。