その言葉を反芻すると、喉が詰まったように苦しくなった。
だって、弱さは許されないものだ。わたしみたいな弱い人間が自ら弱さを許したら、崩れて二度と立て直せなくなるじゃないか。
そう頑なに反発する頭とは裏腹に、心の奥では温かい波紋が広がっていく。目頭にぎゅっと力をこめて、雫がこぼれないように我慢した。
「……凪さん」
「うん?」
「わたし、前に多重人格のことを調べてみたことがあるんです。ホタルが何を考えて生きているのか、少しでも理解したくて」
あれはそう、お年玉事件でホタルと喧嘩したとき。わたしは病院のベンチに座って、スマホで情報を検索した。
あれが最初で最後、たった一度だけだった。
「そこにはいろんなことが書かれてました。交代人格はただの脳のバグだとか、精神的な避難所みたいなものだとか。本当にいろんな情報があった。
……でも、わたしの知っているホタルの姿は、そのどれにも当てはまらなかったんです」
医学的に見れば、ホタルという人格は“病気の症状”のひとつなのだろう。
けれどそんな言葉で割り切ることは、どうしてもできなかった。
少なくともわたしにとっては、ホタルはたしかに存在している人だったから。