わたしと出逢ったことで、蒼ちゃんは強くなり、そしてホタルは弱くなった。
本来ならそれは喜ぶべきことで。なのになぜわたしは今、泣き叫びそうになっているのだろう。
「蒼がホタルの影響で泳げなくなったことは、真緒ちゃんも知ってるよね?」
わたしは頭を垂れたまま、小さく首を動かして頷いた。
「でも最近の蒼は、少しずつプールに足をつけられるようになってきたんだ。ホタルの力が弱くなって、今はほとんど眠っている状態だから。
この先でホタルが消えれば、蒼はまた泳げるようになると思う」
「……よかった、です」
無理やり口角を持ち上げたら、頬がみっともなく震えた。奥歯がカチカチと鳴っている。
でも、笑わなきゃ。泣くな。涙なんか、こみ上げてくるな。消えろ。消えろ。こんな感情は持っちゃいけない――。
そのとき突然、頭の上にふんわりと手のひらが乗った。驚いて顔を上げたわたしは、凪さんが慈しむような表情でこちらを見つめていたことに気づいた。
「凪さん……?」