……初めてハンバーグを食べたとき、お皿から立ちのぼる湯気にビックリしていたホタル。
あのときは変なヤツだなと思ったけれど、今なら理由がわかる。

彼は、温かい食べ物というごく普通の幸せすら与えられずに生きてきたのだと。


「これは、真緒ちゃんには厳しい話かもしれないけれど」


凪さんが突然、そんな前置きをして言った。


「蒼は今また、多重人格の治療を受けているんだ」

「え……」

「最初はホタルが抵抗して、うまくいかないかと思ったけど、今では驚くほどのスピードで治療が進んでいる。順調にいけば、次の診察でホタルを統合できるかもしれない」


すうっと血の気の引く音がした。心臓が踏みつけられたように、呼吸が苦しくなる。


「次って……いつなんですか?」

「こんどの土曜。休診日の方が時間をしっかりとれるから、先生が特別に開けてくれるって」