「うーん。まあ一応、こいつのおかげかな」


静かに微笑みながらそう言って、肩にかけた黒いバッグをぽんと叩く。中に入っているのはたぶん、凪さん愛用のカメラだ。


「ファインダー越しに見るとね、肉眼よりも被写体のことがよくわかるんだ。特に蒼の写真は数えきれないくらい撮ってきたから、こないだの夏祭りであいつを撮ったとき、すぐに気づいたよ。
これは蒼じゃない、別人だって」


わたしは夏祭りで凪さんに会ったときのことを思い出した。

たしかにあのとき、彼はわたしたちの写真を撮ってくれたのだ。でもまさか、あの時点で勘づいていたなんて想像もしていなかった。

一見マイペースなようで、実はすごく鋭い人なのかもしれない。


「俺は、蒼の泳いでいる姿を撮るのが好きだった。カメラマンとして認められるきっかけになったのも、蒼の中学時代に水泳大会で撮った一枚の写真だったからね。

東京から会いに来たのも、もう一度あいつに泳いでほしかったからなんだ。