「……ごめん、蒼ちゃん」
小さく独り言をつぶやいて、胸に拳を押し当てた。
蒼ちゃんの幸せを願いながら、ホタルの幸せも願ってしまう。そんな自分が、ひどい裏切り者のように感じた。
* * *
夕方にバイトを終えたわたしは、久しぶりにある場所を訪れた。
蒼ちゃんが住む町の、寂れた公園のフェンスのむこう。今は誰にも使われず、時の流れから取り残されたようにひっそりと佇むだけの小さな港。
以前、蒼ちゃんに夜光虫を見せてもらったあの海だ。
……あれから一月半くらい。たったそれだけしか経っていないのに、ずいぶん前のことのように感じる。
わたしは潮風に吹かれながら、手首からブレスレットをはずし、手のひらの上に置いた。
さっき千歳にこの石の名前を聞かれたときは、とっさに『知らない』と答えたけれど。
本当は、ちゃんと知っている。紺碧の海のような色をしたこの石の名は“蛍石”。
彼のことを想いながら選び、ブレスレットを作ったのだ。