「もー。心臓飛び出るかと思ったじゃん!」
「ひんやりして気持ちよかったでしょ?」
「冷たすぎるってば!」
こうして友達とはしゃいでいると、ホタルや蒼ちゃんのことが、どこか遠い夢のようにも思えてくる。
だけど今この瞬間も、彼らはそれぞれの葛藤の中にいるのだろう。
わたしは海水浴を楽しむ人たちを遠目に見つめながら、以前蒼ちゃんに聞いた話を思い出した。
『俺が水泳をやめたのは、ホタルがよみがえった影響なんだ。泳ぎたくても泳げないんだよ、今の俺は』
それは夏祭りの帰り道に打ち明けてくれた言葉。
将来有望なスイマーだった彼を水泳から遠ざけてしまうほど、ホタルが与える影響は大きいのだろう。
ホタルが存在し続ける限り、蒼ちゃんの人生には様々な影が差す。このままでいいはずがない。
ましてや復讐を目的とするホタルを、このままにしておけるわけがない。
それはわたしも痛いほどわかっているはずなのに――。
やっぱり、ホタルに消えてほしくない。
そう願ってしまうわたしもいるのだ。