「まさかこれ、家の船に落書きしたの?」
「落書きって言うなよ。俺の免許取得記念に描いたんだから」
「いやいや、でもさ」
「大和ーっ!!」
地鳴りのような怒声が轟き、3人同時に飛び上がった。声のした方を見ると、すごい勢いでビーチを突進してくる人影がひとつ。
「あんた、父ちゃんの船に変な落書きしたね!?」
「やべっ、オカンだ」
「ちゃんとキレイに消してもらうからね!! あっ、待ちなさいコラ!!」
一目散に逃げ出した大和をおばさんが追いかけていく。コントの警官と泥棒みたいな光景をわたしと千歳は唖然と見つめ、それからふたり揃って吹き出した。
「そりゃ怒られるでしょ!」
「ていうか大和もおばさんも足、速っ!」
ケラケラと笑うわたしたち。遠くの方から「許してくれー母ちゃん」と、捕獲された大和の悲鳴が聞こえてくる。
「今夜はたっぷりお説教だろうね」
正座でうなだれる大和を想像して、わたしはクスクス笑った。こんな風に気分が軽くなったのは久しぶりだ。
そのときだった。
「よかった。やっと真緒らしい顔になって」