かすれた声で「あ……」と漏らしたホタルは、わたしの頬に手を伸ばそうとし、だけど寸前で止めた。
さっきまでの冷たい表情は消え、瞳が大きく揺れている。
沈黙の中、彼の震える息の音だけが聞こえた。
「ホタル……」
どうしてそんな顔するの? わざと殴ったわけじゃないのに。
そう尋ねようとしたとき、すっと目の前の顔つきが変わった。
「真緒っ、大丈夫か!?」
突然、まったく違う声色になった。両肩をつかみながら心配そうに顔をのぞきこまれ、わたしは目を丸くする。
「え、あ……蒼ちゃん。なんで……?」
「ずっと中から見てたんだ」
次々急転する事態についていけないわたしに、蒼ちゃんが言った。
さっきの男との揉み合いも、わたしが止めに入ったことも、彼は全部見ていたらしい。
「真緒……。すごい赤くなってる」
迷うことなくこちらへと伸びてきた右手が、そっとわたしの頬に触れる。
そのやさしい声に安心したのか、体から一気に力が抜けた。