「やめ……」
「どうして僕らを見張ってた?」
ホタルが冷ややかに尋ねた。
その眼光と声の冷酷さ、無慈悲な処刑人のような威圧感に、見ているわたしまで鳥肌がたつ。
「あの男の差し金か?」
「ホタル、ダメっ!」
このままじゃ窒息させてしまう。わたしはホタルに駆け寄り、彼の腕をつかんで必死に制止した。
一瞬の隙を見て男が逃げ出していく。
「待てっ――」
「行っちゃダメ!」
追いかけようとするホタルの背中にしがみついた。
たとえどんな理由があろうと、こんな風に人を攻撃する彼を見たくなかった。
こんなことをするために彼は存在しているんじゃない、そう思いたかった。
ホタルが大きく腕を振り払う。その左手がわたしの頬を打った。
「痛っ……」
思わず声を漏らしたと同時に、ホタルがハッとして動きを止めた。
我に返ったような目がこちらを振り向く。
次の瞬間、顔がこわばったのは、おそらく赤くなったわたしの頬を見たからだろう。