駅の地下通路は、真夏でも少しひんやりしている。
地上を走る電車の音を聞きながら、わたしはスマホで時刻を確認した。
午後3時過ぎ。次の快速電車に乗れば夕方には帰宅できるだろう。
「田尻さん、いい人でよかったね。思ったよりたくさんの情報が聞けたし」
歩きながら隣を向いてそう言ってみたけれど、ホタルの返事はなかった。
何か考えこんでいるらしい表情。独り言のような形になってしまったわたしは、苦しまぎれに言葉を続けた。
「まあ、決定的なものはなかったから前進したとは言えないんだけど……」
「そうでもないぞ」
急に意外な反応が返ってきて、わたしはきょとんとする。
“そうでもない”ということは、田尻さんの話から有力なヒントを得たという意味だろうか。
「それってどういう――」
「真緒」
たずねようとした矢先、ホタルが低くささやいた。
「3秒数えたらお前は走って逃げろ」
「え?」
いきなり何? 逃げるって?
急にドラマみたいなセリフを言われても意味がわからない。説明を求めてホタルに視線を投げかける。
が、彼は前を向いたまま小さな声で「3……2……」とカウントダウンを始めた。
「1……」
ちょっと待――
「行け」