あっという間に一時間が過ぎ、田尻さんが仕事に戻る時刻になった。

わたしたちはお礼を言って、席から立ち上がった。


「あら、案外背が高いのね」


ホタルの立ち姿を見て、田尻さんが感心したように漏らした。


「それに細いし。最近の子はスタイルがいいからうらやましいわ。わたしなんて最近、7キロも太っちゃって」


おどけたように言いながら、彼女の瞳が下から上へと移動していき、ふと、ホタルの顔の位置で止まる。


「……やっぱり、よく似てる」


どことなく切ない口調だった。涙を我慢して微笑んでいるような、複雑な表情。

微動だにせず見つめ続ける彼女に、ホタルがやんわりと尋ねた。


「まるで生き返ったみたいですか?」

「え?」

「母が」

「……ええ、その通りね。本当に生き返ったみたい」


田尻さんは見つめすぎていたことに気づいたのか、バツが悪そうに目をそらした。


「じゃあ、また何か力になれることがあったら遠慮なく言ってね」

「はい。ありがとうございます」


わたしたちは喫茶店の前で別れの挨拶をして、雑踏に消えていく彼女の背中を見送った。


   * * *