田尻さんがアイスコーヒーをストローで混ぜながら、記憶をたどるような表情になる。
「あまり自分のことを語るタイプじゃなかったから、ハッキリとは聞いてないんだけど……たしか年齢は同じだったと思う。相手がまだ学生で、すぐには入籍できないって言ってたから」
「相手の家については何も聞いていませんか? 母の手紙によると、それなりの家柄だったようですけど」
「手紙?」
「はい。母が自殺する前に残していたんです。結局出さなかった手紙なので、今は僕の家にあります」
「……そう。水原さん、最後にそんな形見を残したのね」
痛ましそうに田尻さんがつぶやき、うつむいた。
その後彼女は、蒼ちゃんの父親について思い出せる限りの情報を教えてくれた。
九州の出身で大学から上京していたこと。
一度だけ洋菓子店に来たのを見たことがあり、小柄でメガネをかけた男性だったこと。
「たいした内容じゃなくてごめんなさい」と田尻さんは言ったけれど、思った以上に情報が得られたと思う。