「今日はお忙しいところ来ていただいてすみません」

「気にしないで。水原さんの息子さんが会いたがってるって聞いたときは、確かに驚いたけど、懐かしいからぜひ会いたいとわたしも思ったの」

「ありがとうございます。ところで、今日はお仕事は?」

「実は今も勤務時間中。外回りの営業の特権ってやつね」


田尻さんがイタズラっぽく微笑み、場の空気がやわらかくなった。

色白で品がよく、電話で話した印象よりずっと落ち着いた雰囲気の、素敵な女性だ。

住宅メーカーに勤めている彼女は、昨年からわたしたちの隣の県に転勤してきたらしい。

おかげでこうして直接会うことができたのだから、こちらにとっては幸運だった。


「田尻さんのご家族は東京にいらっしゃるんですか?」

「ええ、そうね」


ホタルがここまで積極的に人と話すのはめずらしい。少しでも相手の口を滑らかにして、父親の情報を引き出したいのだろう。