午後2時の喫茶店は適度に人で埋まっていた。
冷房の真下で涼むサラリーマンや、おしゃべりに花を咲かす主婦っぽいグループ。
そんな中、わたしたちのテーブルの周りにだけ緊張が漂っている。
「はじめまして。田尻尚子です」
「はじめましてっ。茅野真緒です!」
よろしくお願いします! と勢いよく頭を下げたら、危うくテーブルに顔をぶつけそうになった。
声も予想外に響いたらしく、ウェイターの視線がちくちくと刺さる。
赤面しながら姿勢を戻すと、田尻さんがクスッと笑った。
「元気ね」
「すみません……」
「で、そちらが例の息子さん?」
田尻さんの目が、わたしの隣のホタルに向いた。
「あっ、はい、えっと」
「水原香澄の息子の、花江蒼です」
わたしから紹介する前に、ホタルが自己紹介をした。いや、正確には“自己”じゃないのだけど。
蒼ちゃんのふりをしたホタルを不安な気持ちで見つめるわたしとは裏腹に、彼はごく自然に田尻さんと会話を続けている。