わたしは手紙を再びはさんで教科書を閉じた。
なんとなく人の教科書で勉強するのは気が引けるから、今夜はもう切り上げることにして、シャワーを浴びるため一階に下りた。


宴会はまだ続いているらしい。浴室につながる廊下を歩いていると、和室のふすま越しに乾さんの声が聞こえてきた。


「それにしても社長。万由子さんの手料理は本当においしいですねぇ」


万由子というのはお母さんの名前だ。なれなれしい呼び方にムッときて、思わず足を止めてしまった。


「社長がうらやましいですよ。万由子さんみたいな娘さんと一緒に暮らしてるんですから」


媚びているのが丸わかりの乾さんの口調。ふん、とおじいちゃんが鼻で笑った。