背中をさすりながら声をかけたけど聞こえている気配はない。

張りつめたその視線の先にあるのは、海に飛びこんで遊ぶ少年たちだ。

ダイブする水の音。
跳ねる飛沫。
夜の海面に浮かぶ人影――。

あの光景の何がこんなにもホタルを乱しているのか。見当もつかないし、考える余裕すらも今はなかった。

ホタルの呼吸の間隔が短くなり、体が痙攣するように大きく震えだした。

周囲の人たちもこの異変に気づき、ざわつき始めている。

がくんっ、とホタルの膝がくず折れた。わたしはとっさに手を伸ばし、その体を腕の中に受け止めた。


「大丈夫!? ホタルっ!」


中腰になってかろうじて踏ん張ったわたしの胸元から、ずるずると力なく下降していく黒い髪。

やがて足元にどさりと崩れた彼が、身をよじるように地面に倒れこむ。