顔から火が出る思いで、目の前の肩をぽかすか殴っていると――…
「ははっ」
今まで一度も聞いたことのなかった声が、すぐそばで響いた。
「え……?」
一瞬聞き間違いかと思い、わたしは目をこらし、そして息をのんだ。
後ろからかすかに見える彼の頬が持ち上がっていたから。
笑ってるんだ。
ホタルが、初めて笑ってる。
それを見た瞬間、なぜかわたしは目が離せなくなって。
思わず両手に力をこめると、「やめろ。痛い」と楽しそうな声でホタルが言った。
……トク、トク、トク、と温かな息吹が胸に流れこむ。
まるでたった今生まれたように、心臓がこれまでにない鼓動を刻み始めている。
何これ。どうしたの、わたし。
まわりの喧騒が遠くなり、世界がスローモーションに見える。
意識はふわふわしているのにクリアで、ただホタルが笑ってくれたことが、泣きたいくらいに嬉しい。
生まれて初めての、今にも胸を突き破りそうなほどあふれてくる
この感情は何だろう。