「ホタル……っ」


みんなに聞こえない位置まで離れてから、名前を呼んだ。
だけどホタルは振り返らず、ずんずんと歩いていく。

力強い左手。汗で光る襟足の髪。耳の後ろがさっきより赤く見えるのは、気のせいだろうか。

両側に屋台が並ぶ通路をわたしたちは無言で進んだ。
きっと「離して」と言えば、すぐにこの手は離れるんだろう。

だけどなぜか言えなくて――言いたくなくて。

つながった手だけがやけに熱くて、体中の血がそこに集まったみたいだった。


「早く早く! 花火始まるよ」


そのとき後ろから走ってきた若い女の人たちが、すぐ横を追い抜いていった。

肩がぶつかりそうになったわたしは、とっさに回避しようと体をひねる。


「わ」


ぐきっ、と嫌な感触を右の足首に覚えた。つないでいた手が反動で離れ、ホタルが足を止めてふり返った。


「どうした?」

「なんでも――」


ない、と言って足を踏み出した瞬間、痛みが走る。