「遅いぞ。今日は早く帰るようにと言っただろ」

「……ごめんなさい」


みんながいる前で怒らなくてもいいのに、この人は平気でわたしを堂々と責める。むしろみんなの前だからこそ、自分の威厳を見せつけるためにやっているんじゃないか、とすら思ってしまう。


「まあまあ、社長。真緒ちゃんの通っている高校は進学校だから何かと忙しいんですよ。優秀なお孫さんがいて喜ばしいじゃないですか」


乾さんが調子のいい口調で言った。
おじいちゃんはまんざらでもない様子で、ふてぶてしく笑みを浮かべる。


「まあたしかに、これは勉強だけはそこそこできるからな」


“これ”呼ばわり。
しかも“勉強だけは”って……。

ざらっと砂を噛んだような不快感が、胸の奥に広がっていく。
だけどこんなのはいつものことだ、気にする必要はない。そう自分を納得させて台所に戻った。