……何よ。完全に逆ギレじゃない。
悪いのはそっちなのに、まるでわたしがひどいこと言ったみたいに……。


「真緒ちゃん」


背後から遠慮がちに話しかけられた。
ふり返ると、パジャマの上に薄いカーディガンを羽織ったおばさんが立っていた。


「散歩をしてたら、その、ふたりの姿が見えたから」


ごめんね、と申し訳なさそうに頭を下げられて、わたしは返事に詰まった。

おばさんがあやまることじゃないです。こんなところで揉めていた、こっちが悪いんです。
そう言いたいのに余裕がない。

黙りこくっていると、もう一度やさしく名前を呼ばれた。

そして。


「ケンカをしていた相手は、蒼じゃないわね?」

「え……」

「ホタルね?」


わたしは目を見張った。
おばさんの温かい瞳がそれを受け入れてくれる。

やっぱり知っていたんだ……おばさんもホタルのことを。