「ホタル……大丈夫!?」
何が何だか頭がついていかない。
どうして、こんな……。
手を貸そうとするわたしを払いのけ、ホタルは何事もなかったかのように立ち上がる。
そして、おろおろするわたしに皮肉な笑いを浮かべて言った。
「僕はどうってことない。殴られたのは、この体だからな」
「あ……」
そうだった。これは蒼ちゃんの体だ。
心配すべきは蒼ちゃんの方だったのだ。
わたしは踵を返し、ホタルに声をかけながら駆けだした。
「ちょっと待ってて、冷やすものを持ってくるっ」
おじいちゃんと顔を合わさないよう勝手口から台所に入り、タオルを一枚用意した。
そこに氷をいくつか包んで、再び庭へと走る。
わたし、バカだ。
蒼ちゃんの体なのに、言われるまでホタルのことばかり心配していた。
でも、だってホタルが殴られたのは、わたしを庇ったせいで――。
「……ホタル?」
冷たいタオルを持って庭に戻ると、そこにはもう誰の姿もなかった。
玄関の照明の下、夜風に吹かれた草が静かに揺れている。
さわさわ、さわさわ、心が揺れた。