なぜわたしに言うんだろう。
蒼ちゃんと千歳のあの雰囲気を見れば、わたしは単なる友人のひとりだとわかるのに。
だけど凪さんは言い逃げして、軽快な足取りでそのまま帰っていった。
* * *
ガチャン、と派手な音がした。
お盆に乗せたビール瓶がすべて倒れ、そのうちの何本かが畳を転がっていく。
ボーリングだったらストライク、と言える見事な倒れっぷり。
まだ栓を抜く前だったことが唯一の救いだ。
「バカが! 早く新しいのと取り換えろ!」
「ごめんなさい」
おじいちゃんの罵声を浴びながら、テーブルの下まで転がった瓶を拾う。
這いつくばる姿勢になったわたしの頭上で、乾さんの声が聞こえた。
「まあまあ、社長。真緒ちゃんはよく動いてくれてるじゃないですか」
あいかわらず腰巾着な乾さん。
おじいちゃんのお気に入りだか何だか知らないけど、わたしは乾さんに労われる筋合いはない。