凪さんは先日大きめの仕事を終え、今は大人の夏休みだそうだ。
せっかくなので普段は撮ることのない田舎の学校風景を見て、構図などを考えながら楽しんでいたらしい。
もちろん、無断で撮影するわけにはいかないから、カメラは電源すら入っていなかったけど。
「あ、蒼」
凪さんが中庭を見て言った。
わたしも視線を追うと、木の陰から蒼ちゃんの黒髪が見えた。
その隣にいるのは、千歳だ。
「うわあ。なんつーか青春だね」
凪さんがそう口にしたのも無理はない。
ふたりの間にただよう親密で楽しげな空気が、遠目に見ているわたしたちにまで伝わってきたから。
蒼ちゃんが千歳の耳のそばで何か話し、千歳がはにかむ。
知らなかった。あのふたり、あんなに仲良くなっていたんだ。
しかも人目につかない場所で会うなんて、もしかしたらすでに付き合っているのかもしれない。
ジャマをするわけにも行かず、それ以上は歩き進めずにいると、凪さんが空気を読んだように踵を返した。
「真緒ちゃん」
「あっ、はい」
「蒼のこと、よろしく頼むね」