『それにしても4万かあ。わたしのお年玉を足しても、2万くらい足りないな』
『おとしだま?』
『え、もしかして知らないの? あんたってハンバーグも知らなかったし、知識が偏りすぎじゃない?』
『だから前にも言っただろ。蒼が外に出てるときは、僕はぼんやりとしか見えないって。
で、おとしだまって何なんだ?』
『一年に一回、大人が袋にお金を入れてくれるの』
『なるほどな。じゃあそれ、明日もらってこい』
『夏にもらえるわけないでしょ……』
結局、資金繰りのめどは立たず、作戦会議は終了したのだった。
――つんつんと背中に細いものが当たる感触で、わたしは我に返った。
はっと下を見ると、机にプリントが数枚置かれている。
「ごめんっ。ぼーっとしてた」
あわててプリントを背後に回すと、うしろの席の千歳がペンを持ったまま笑った。
ポニーテールのおくれ毛を軽く巻き、つやつやのリップを塗った千歳。
最近かわいくなった気がするのは、やっぱり恋をしているからだろうか。
そのとき、窓際の席の方から、大きめのひそひそ声が聞こえてきた。