「一枚ずつ取って、後ろに回してくださーい」


先生が教室を横に移動しながら、最前列の机にプリントを数枚ずつ置いていく。

リレーのように前から順番に生徒がふり返り、椅子が床をこする音がした。

あさってから夏休み。来年は受験生だから今年の夏は遊びまくってやろう、という気合にも似たムードが教室内にただよっている。

本来ならわたしもそうしたいところだけど、頭を埋めるのはやっぱりあのことだ。


『金がいるな』


昨日ホタルと図書館を出てから、今後の作戦を練っていたとき、彼は突然そう言った。


『お金? 2千円くらいなら持ってるけど、いくらいるの?』

『4万』

『4万!?』


さすがに高校生にはハードルが高すぎる。
4万円の内訳は東京までの、ふたり分の往復交通費らしい。