駅への道を走りながら、スマホで時刻を確認した。もう午後6時20分だ。家に着くまでの時間を計算して、胸がずんっと重くなった。
急がなくちゃ。
早く帰らなくちゃ、まずいことになる。
わたしのせいで迷惑がかかってしまう。
とめどなく流れる汗を腕でぬぐいながら、夏の夕暮れの家路を、わたしは必死に急いだ。
* * *
「遅くなってごめん!」
勝手口のドアを開けると同時に叫ぶと、煮物をよそっていたお母さんが手を止めて振り向いた。
「おかえり。駅から走ってきたの?」
「うん、電車を一本乗り遅れちゃったから」
「そんなに急がなくてよかったのに。喉乾いたでしょ? 麦茶飲む?」
「大丈夫」
台所につかつかと足を踏み入れたわたしは、すばやく手を洗ってエプロンを着けた。
廊下のむこうの和室から、賑やかな笑い声が聞こえてくる。すでに宴会が始まっているようだ。