「で、どうだった?」
「何が?」
「初めてしゃべった花江くんの印象は」
インタビューのような口調で千歳にたずねられ、わたしはさっきの出来事を反芻した。
花江くんのやさしい雰囲気、美しい所作、そしてあの笑顔を。
「なんか……天使みたいな人だった」
「何それ」
ぶっと吹き出す千歳。稚拙な比喩を用いてしまったことに気づいたわたしは、急に恥ずかしくなった。
たしかに同級生男子に対して天使は変だったかもしれない。だけど、それ以上にしっくりくる表現がなかったのだ。
「そんな笑わないでよ。千歳が聞くから答えたのに」
「ごめんごめん。ていうか真緒、用事があるんじゃなかったっけ?」
「あっ、やばい! もう帰るね」
「バイバ~イ」
ダッシュで校舎を出ると、橙と紫のグラデーションが空に広がっていた。
沈みかけの太陽は甘露飴を溶かしたように、山の稜線にとろりと流れこんでいる。